ごろにゃ~の手帳(備忘録)

備忘録的ブログ。経営やマネジメント、IT、資産運用、健康管理などについて書き留めてます。

実践知リーダー

組織の中でこのSECIスパイラルを持続的かつ高速で回していくためには、ある種のリーダーシップが必要。それが「実践知リーダー」。

実践知は、その時々で変化する環境の中で、その前後の事象の関係性、つまり、その時々のコンテクスト(文脈)を読み解きながら賢いジャッジメントをする能力です。コンテクストとは、人と人とが相互作用する環境のことで、組織においては、組織構造やそこで働く個人の価値観、パワー関係、仕事の性質(挑戦度)などを含むダイナミックな状況のことです。

同じ出来事に遭遇した場合でも、そこに関わる人たちのコンテクストによって答えは変わってくるわけで、場を共有しながら意味を洞察しつつ、共通善にむけた「よりよい」合意形成の対話力が問われるのです。たとえば、顧客の「結構です」という言葉は、はたして「要る」のか「要らない」のか、ダイナミックな関係性のなかでしか判断できないのです。こうした能力を備えたリーダーが存在してこそ、SECIモデルのスパイラルが高速に回転し、その結果としてイノベーションも生まれやすくなります。

 リーダーの条件というと、従来は意思決定力、すなわち、デシジョンメイキングの能力が重要とされてきました。しかし、環境がダイナミックに変化する現在は、それ以上に、その時々の文脈に応じた意味を読み取り、適時適切な判断を行うことができる能力、すなわち、ジャッジメントの能力が必要となります。

デシジョンはコンピューターのたとえから生まれた概念で、ある特定の条件を数値や論理で判断する能力です。安定した環境下では、論理的なパターン化が可能なので、コンピューターの方が人間よりも優れているといってよいかもしれません。

 しかし、現在のビジネスシーンでは様々な関係性が複雑に絡み合った判断が瞬時に求められるケースが多々あります。しかも、文脈は絶えず変化しているので、その背後の関係性や意味の多くは見えません。また、どれだけ広く深く関係性を捉えるかは、われわれの直観に依存します。判断を下さなければならない時までに、十分な時間や材料が揃わないのが現在の経営環境です。こうした場合は、ベストではないかもしれないけれど、その時々のコンテクストを読んでベターな判断を瞬時に下さなければならない。これがジャッジメントです。正解にたどり着くのが困難な問題に対して、正解の近似値を即座に回答する能力がジャッジメントなのです。

経営・経済環境は、今後も激しく変化していくでしょう。そうなると、ベストに近いベターな判断を無数に、無限にでも行っていかなければなりません。現在は、こうした判断を下せるリーダー、すなわち「実践知リーダー」が求められているのです。


イノベーションを起こすのは創造性のある人だけだと思いがちですが、そうではありません。イノベーションの発想の基本は現場や現物、現実からの帰納法にほかなりません。重要なことは、共通善に向かう思いや信念を持って、現場の状況や文脈を組織が持っている知識につなげて組織的に知識を創造すること、言い換えれば、顧客の状況や文脈と自社の信念や思いと知識を結びつけて実践にまで持って行く大きな「物語り」を描くことです。