ごろにゃ~の手帳(備忘録)

備忘録的ブログ。経営やマネジメント、IT、資産運用、健康管理などについて書き留めてます。

攻殻機動隊と孫子で説くリーダー論

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」は、2002年に神山 健治監督によってアニメ化された作品である。この作品に登場するとある人物、荒巻 大輔課長は、孫子兵法の教えを体現したリーダーシップを発揮している。これはどういうことなのか。まずはこの作品の基本構造を確認しよう。

 孫子兵法の提示する「君−将−兵」モデルでこの作品の登場人物を考えると、「内務大臣−荒巻課長−草薙素子少佐及び、彼女が率いる実戦部隊」との構造が読み取れる。

 前編で取り上げたような、「君主は要らぬ口出しをするものである」とのエピソードは第5話「マネキドリは謡う」に象徴的に描かれる。

 場面は、このTVシリーズ最大の事件、「笑い男事件」の幕開けのワンシーンだ。とある不祥事に関する警視総監の記者会見が全国で生放送されているさなか、警察幹部の電脳がハッカーに乗っ取られる。そしてあろうことか、電脳を支配された幹部の口から総監の暗殺が予告されるのだが、それがまるごと生放送の電波に乗ってしまったのであった。

 当然、この種の犯罪は9課のヤマである。早速勇んで対応を内務大臣と協議に向かった課長だが、大臣の口から発せられたのは、「今回は余計なことはしないように」との自重の言葉であった。

 ただでさえ不祥事で警察組織のイメージがダウンしているなか、生放送中に幹部の電脳がハッキングされ、組織全体の威信に関わる問題となっている。事と次第によっては、時の政権の支持率にも影響しかねない。

 情け容赦なく真相を追求し、正義の為には暴走も辞さずという傾向のある公安9課は良くも悪くも予測不可能な存在であり、手柄を立てる可能性もあるが、やぶ蛇というリスクも十分ある。今回はあまり余計なことはしてくれるな、ということである。

 不本意な思いを抱えつつ、部下である草薙素子とバトーの待つ車に向かう荒巻課長。ドアをあけて座席に乗り込んだそのときの会話だ。

バトー:遅ぇな、課長の奴

素子:そうね。……来たわ

バトー:ありゃあ、横槍を入れられたって面だな

素子:がっかりするような話をされた?

荒巻:大臣にか? あの人は良くも悪くも、ただの民衆の代表に過ぎん。問題なのは、衆人環視のなか総監暗殺を予告されていながら、のんびりローラー作戦なんぞを展開させている本庁のほうだ

素子:あたしたちは、その成り行きをテレビ観戦?

荒巻:お前たちには給料分しっかり働いてもらう!

バトー:ウォン、オン!

 言うまでもなく、これは「君主は進んではダメな時に限って進めと言い、退いてはダメな時に限って退けと言う」の典型例だ。

 君主が状況を見誤って、ダメな意思決定を下してしまった時に、彼の部下である「将」は一体どのように身を処すべきだろうか?ポイントは、組織の論理にギリギリ外れることなく、それでもやはり自分たちの本分である、「犯罪に対する容赦なき追求」成立させる課長の判断・指示だ。

 公安9課の人々は言ってみれば公務員であるわけだが、給料をもらっているのは、組織の論理を守るためではなく、社会の安定に貢献するためである。とはいえ組織の安定なくして職務は全うできないのも事実であり、それらを両立できないのが組織人の辛さである。

 こうしたときに現場がどちらを向いて動けばよいのか、迷いが生じるわけであるが、その迷いを迷いのままで放置していては、組織の力は発揮されるわけがない。

 「将」の役割が、上から降りてきたものをそのまま降ろし、下から上がってきたものをそのまま上げるだけであれば、これほど楽な話はないのだが、そうではない。上と下の間にある矛盾を高い次元で解決し、本来のチームのミッションを達成させるための、ある種の強引さが求められるものである。

 こうして考えると、「給料分、しっかり働いてもらうぞ」という言葉は、なかなか味わい深い。