ごろにゃ~の手帳(備忘録)

備忘録的ブログ。経営やマネジメント、IT、資産運用、健康管理などについて書き留めてます。

人の心を動かすスピーチ

聴き手の心を揺さぶり、信頼を感じさせながら、効果的にメッセージを届ける。そんなストーリーを語るためには、どうすればよいか? 具体的には、次の3つの点を満たすことが重要となります。

 第一に、効果的な流れでストーリーを語ること。事件(状況設定)→葛藤→解決→教訓、という流れが基本です。感動する映画やドラマは、多くの場合、この流れで構成されています。

 第二に、情景と心理をありありと描写すること。目をつぶれば、まぶたに映画のワンシーンが映し出されるくらい、細部までリアルに表現すること。特に、葛藤の場面では、心のつぶやきをそのままに描くことが大切です。

 第三に、思い切った自己開示を行うこと。最近の研究でも、信頼されるリーダーには、人間らしさ、温かさが求められることが明らかになっています。うまくいったことだけでなく、成功に至るまでの道のりで経験した困難や葛藤を、包み隠さず打ち明けることで、聴き手は、話し手が生身の人間であり、自分の弱さを認める勇気を持つ、率直な人間であることを感じます。このことが、話し手に対する信頼感にもつながるのです。



事件(状況設定)
 まず、ストーリーの冒頭で、きっかけとなる出来事である事件を描きます。具体的には、いつ、どこで、誰が、どんな状況下で、どんなことが起きたか、について触れます。実際のスピーチでは、この部分をできるだけ短く語ることが肝要です。ここをダラダラと話してしまうと、聴き手の集中力が途切れてしまい、後に続く話を聞く気が失せてしまいます。

葛藤
 次に、葛藤を描きます。起きた事件でどんな困難に直面し、どんな葛藤があったか。その克服のために何を行ったのかについて描きます。実際のスピーチでは、起きたことだけでなく、そこで何を思い、何を感じたか、ありありと心情を描くことが肝要です。そのことで、聴き手の心が掻き立てられるからです。

解決
 ストーリーの締めくくりは、最終的にどのように解決したかを描きます。何が解決の糸口となったか。それにどう対処して決着に至ったかなどについて触れます。

教訓
 ストーリーの後に、どんな教訓を学んだかをまとめます。そのうえで、聴き手に届けたいメッセージを伝えます。実際のスピーチでは、ここが一番大切です。ストーリーは、教訓とメッセージを届けるために語られるのですから、「この経験を通じて、自分はいったい何を学んだのか?」ということを繰り返し自問自答しながら、深い学びを引き出すことが肝要です。

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ビジョンを語る際の“説得技法” ビジョンを語り、人々に行動を促すためのスピーチを行う際に、アラン・モンローの説得技法を用いることが効果的です。これは、①アテンション(注目)→②ニーズ(必要性/問題点)→③ソリューション(解決策)→④ビジュアライゼーション(視覚化)→⑤アクション(行動)、という流れでスピーチを構成する方法です。
 オリンピック東京招致のプレゼンテーションで、チームジャパンが成功した要因として、グローバル・ビジョンをアピールした点が挙げられます。日本が、一国の利益を超えて、スポーツの価値をグローバルに広めることで世界平和を実現するという、オリンピック精神を持って開催に臨むことを示したことが、IOC評価委員の信頼を得ることにつながったのです。

 詳細は安倍首相のスピーチで語られましたが、その際にモンローの説得技法の流れが用いられています。以下に見ていきたいと思います。(日本語訳は、『ハフィントンポスト』「オリンピック東京プレゼン全文、安倍首相や猪瀬知事は何を話した?」2013年9月8日を元に作成)

①アテンション(注目)
 まず、冒頭で聴き手の注意を引きつけます。安倍首相は自らの経験を語り、日本人は心からオリンピック運動の価値を理解していることを示しました。ここでは、より直接的に、ビジョンを示すキーワードを端的に語る方法も効果的です。

「私は本日、はるかに重要なメッセージを携えて参りました。それは、私ども日本人こそ、オリンピック運動を真に信奉する国民であるということです。その最たる例が私です。

 私は1973年に大学に入り、アーチェリーを始めました。その理由は、その前の年に開催されたミュンヘン・オリンピックで、アーチェリーがオリンピック競技種目に復活したからです。すでにその時、私のオリンピックへの愛が芽生えていたのです。

 今でも、こうして目をつぶると、1964年の東京大会開会式の情景が目に浮かびます。一斉に放たれた、何千という鳩。紺碧の空高く、5機のジェット機が描いた五輪の輪。その何もかもが10才だった私の目を見張らせるものでした。」

②ニーズ(必要性/問題点)
 次に、なぜ、そのビジョンを追及することが必要なのか、その理由について述べていきます。安倍首相は、オリンピックが世に残すものは、造られた建物ではなく、スポーツの価値を知り、その価値を世界に広めようと目覚めた人を育てる点にある、という考えを主張しました。ここでは、ビジョンを持つに至った背景ストーリーを語ることも効果的です。

「スポーツこそが、世界をつなぎ、万人に等しい機会を与える。オリンピックの開催を通じて、私たちはこのことを学びました。オリンピックの遺産とは、建築物や、国を挙げて推進したプロジェクトばかりを言うのではない。開催を通じて育った人こそが大切なのだ。オリンピックの精神が、私たちにこのことを教えてくれました。」


③ソリューション(解決策)
 続いて、どうすれば、そのニーズを満たすことができるのか、問題を解決することができるのかについて、具体的に述べていきます。安倍首相は、かつて日本が行ったスポーツ・ボランティアの世界派遣に触れながら、日本が準備する新しいプランについて説明しました。

「翌年、日本はボランティアの組織を作りました。広く、遠くへの、スポーツのメッセージを送り届ける仕事に乗り出したのです。以来、3,000人もの日本の若者が、スポーツ・インストラクターとして世界で働きました。訪れた国は、80カ国を超えます。この活動を通じて、100万を超す人々の心に感動を届けたのです。

 敬愛するIOC委員の皆様に申し上げます。2020年に東京を選ぶとは、オリンピック運動の一つの新しい、強力な推進力を選ぶことを意味します。なぜならば、私たちが実行しようとしている「スポーツ・フォー・トゥモロー」という新しいプランのもと、さらに多くの日本の若者たちが、世界に出て行くことを意味するからです」

④ビジュアライゼーション(視覚化)
 WHYとHOWを述べた後に、未来像を視覚化します。ビジョンを実現するための具体策を実行したあかつきに、どんな未来が待っているのかをありありと描いていきます。安倍首相は、世界に散らばっていく日本の若者たちが、具体的にどんな活動を行うのかに触れました。

「学校を作る手助けをするでしょう。スポーツの道具を提供するでしょう。体育のカリキュラムを生みだすお手伝いをすることでしょう。やがて、オリンピックの聖火が2020年に東京へやってくるころまでには、彼らはスポーツの喜びを、100カ国を超える国々で、1,000万人にならんとする人々に、直接届けているはずなのです。」

⑤アクション(行動)
 最後に、ビジョンの実現のための行動を呼びかけます。直ぐに実行できる、最初の一歩を呼びかけることが大切です。安倍首相は、IOC評価委員に対して、東京への投票を呼びかけました。チームジャパンのプレゼンテーションは、竹田委員長が締めくくることになっているので、表現が遠回しになっていますが、通常は、よりダイレクトに行動を呼びかけます。

「今日、東京を選ぶこと。それはオリンピック運動の信奉者を選ぶことを意味します。情熱と誇りに満ちた、強固な信奉者を選ぶことに他ならないのです。スポーツの力によって、世界をより良い場所にせんとするために、IOCとともに働くことを強く請い願う。そういう国を選ぶことを意味するのです。皆さんと働く準備が、私たちにはできています。」

IOC評価委員の信頼を勝ち取る原動力となったチームジャパンのグローバル・ビジョンは、効果的な流れで語られたからこそ、心を揺さぶる力を持つことができたのです。

大事なポイント
●聴き手に対して、ロジカルに話をするだけではダメ。エモーションを揺さぶり、トラストを感じさせることができて、初めて人は自らの意志で動こうとする。

●聴き手を思いやった明確なメッセージを届ける。そのためには、相手を知ることが必要であり、場の要請と聴き手の期待を深く理解することが大切である。

●メッセージを効果的に届けるために、オープニング、ボディ、クロージングの三部構成でスピーチを構成することが効果的。オープニングで聴き手とつながり、ボディではシンプルな構成で主張を支え、クロージングでメッセージを心に焼き付ける。

●情景や心理をありありと描いた、ストーリーを盛り込むことで、聴き手の感情を揺さぶる効果が得られる。自分だけの経験談と学びを、腹を割って話すことで、聴き手に人となりを理解してもらい、信頼の基盤を作ることもできる。経験談は、事件→葛藤→解決→教訓の流れで話すのが効果的。

●ビジョンを描くことで、聴き手に取り組むことの意図と、その先の姿を伝えることができる。そうすることで、人は心を奮い立たせ、やる気を持って物事に取り組むことができるようになる。ビジョンは、注目→必要性→解決策→視覚化→アクションという、アラン・モンローの説得技法の流れで話すのが効果的。