ごろにゃ~の手帳(備忘録)

備忘録的ブログ。経営やマネジメント、IT、資産運用、健康管理などについて書き留めてます。

広告の社会心理学

広告の発信者が消費者の意識的・無意識的な購買行動を促進することを、社会心理学上では「説得」という言葉を使うようだ。社会心理学者のチャルディーニによると、説得の手がかりはについて<好意><希少性><権威><返報性><一貫性><社会的証明>という6つの原理に分類されるという。

 まず<好意>。これは当たり前のことだが、商品に対して好意を持ってもらえると、売り上げは伸びる。TVのCMではタレントの容姿・清潔感など身体的魅力が、商品に無意識的に帰属されることを狙っている(ハロー効果)。そして、反復して好意的な情報に接すると、刺激の処理効率が高まり、そこで生じた親近感も帰属される。
 TVのCMのほとんどが「15秒」や「30秒」という規格に収まっている。伝える情報量としては多いとはいえない。しかしこの「15秒」という規格は、ハロー効果と反復接触の原理で言えば、充分効果的ということなのだろう。

 他の手がかりとしては<希少性>、<権威>などがある。<希少性>は「限定発売」や「品切れ間近」と告知する。すると、心理リアクタンス効果(自由が制約されると、その自由を回復しようとする)や、社会的証明の原理(他者が欲しがるような優れた商品と解釈する)によって説明できる。
 <権威>は、権威を示す服装やシンボルを身に着けること。薬用歯磨き製品などで白衣を着けた俳優が商品の説明すると、実際にはその俳優が歯科医師免許を持っているのではない事が解っていても、消費者の潜在意識レベルにおいて信頼感を植えつけられる。

 また、消費者への説得にあたっては、精緻化され、論拠の強いメッセージを与えたほうが、当然効果的であると思ってしまうが、面白いことに、ことはそう単純ではないらしい。

 受け手の動機付けが高い場合は、論拠が強いメッセージに説得されやすく、動機付けが低い場合は、論拠の強弱よりも単純な手がかりの影響を受けやすい。
 具体的な例で言うと、頭髪に悩みを持っている人(つまり動機付けが高い)は、シャンプーの育毛成分や肌に優しい成分などを詳細に説明しているCMのほうが効果的だが、頭髪に悩みのない人は商品イメージ(起用タレントの美しさやパッケージなど)によって商品を選択する傾向が強いそうだ。

 もちろん、精緻化と単純な手がかりを組み合わせる広告もある。個人的にちょっと面白いなあと思う広告は、保険会社のCM。60歳以上からでも入れる保険など、高年齢層をターゲットにした医療保険の広告は、非常に精緻化されたCMを作っていると感じる。同時に、年齢の割りに若々しいイメージのあるタレントを起用して、単純な手がかりによる説得の意図も感じる。
 他にも、最近の自動車保険のCMは清潔感のある美しい女性タレントを起用しながら、顧客満足度やロードサービスなど、ある程度精緻化された説得も行っている。

 広告の送り手は、消費者に対してさまざまな「感情」を喚起することによって、購買動機につなげようとする。タレント笑顔やポジティブな魅力(栄養ドリンクのCMでの逞しいシーンなど)によって、商品の魅力の判断意混入させるというもの。これは普段でも考えていた事だが、他にも、恐怖や嫌悪感さえも購買動機に結びつけていることには意識が無かった。
 例えば、生活洗剤のCMに雑菌が繁殖するイメージ映像を使用したり、除虫剤のCMにゴキブリのイメージ映像を使用したりする。これはネガティブなメッセージを精緻化して伝えたほうが購買意欲につながる、ということなのだろう。

 他にも、面白いなあと思ったのはユーモア。以前はユーモアが受け手の肯定的思考を喚起するとされていたが、今はその効果の一貫性には議論があるようだ。80年代後半〜90年代初めごろは、シュールなユーモアを使ったCMが沢山あったように思うが、最近減ったのは、こういった社会心理学上の知見によるものだったのだろうか。

 次にメッセージの提示方法についても考えてみる。

 提示には、商品の長所のみを提示する「一面提示」と欠点や反論も合わせて伝える「両面提示」がある。通常のCMなどでは一面提示が多いが、最近は両面提示の手法が多く見られるようになった。前回の受けての動機付けの事とも関連するのだろうけれど、受け手が知識が多い場合や動機が強い場合は「両面提示」非常に効果があるようだ。
 また髪の毛の話になって恐縮だが、最近気になっていたのは、発毛サービスのCMで、社長が「約3.4%の方に発毛を実感して頂けませんでした」というネガティブな情報の提示。髪の毛に対する動機付け(悩み)が低い人は「なんだ全員発毛するわけじゃないのか」と、消極的な評価になりかねないのだろうが、髪の毛に対する動機付け(悩み)が高く、発毛するという現象が非常に希少な事であるという精緻な情報を保持している受け手は、「残りの96.6%の人は発毛したのか」という強烈な印象を残すだろう。

 他にも「比較広告」という提示手法があるが、日本では法規制や国民性の問題もあって、あまり例が見られない。アメリカでは多用され、効果が広く認識されているようだ。

 次に「段階的養成法」という方法。まず小さな要請を受け手に承諾させることで、本来の要請(商品の購入)を承諾させやすくさうる。第一要請を受け入れたことで、自分が商品に興味を持っていると錯覚する効果や、行動の一貫性を保とうとする一貫性の原理でも説明される。ネットの普及によって、『続きはwebで』というCMが多くなっているが、webによって精緻化されたメッセージを伝えるとともに、この段階的要請の受諾効果も計られているのだろう。


 「特典付加法」は昔からTVショッピングなどで用いられて来た方法。「今なら○○も付いてくる!」というヤツで、古典的な方法だが。単に割安感を演出するだけではなく、社会心理学では<譲歩の返報性>のメカニズムでも説明される。つまり、相手が譲歩したので、(購入行動に)自分も応じるという半無意識的心境になるようだ。それだけに定番の方法ながら長く用いられ続けるのだろう。
 
 化粧品などの訪問販売などでは、まずアンケートに答える条件で無料のノベルティを提示され<譲歩の返報性>、アンケートの内容に応じて、売り手が買い手の動機を喚起し、それに応じた精緻化されたメッセージを提示される。説明の中ではネガティブな精緻化メッセージ(既製品の肌に与える危険性)も利用されるだろう。次に日本人には免疫のない<比較広告>(大手の化粧品との比較)を使えば非常に説得力を帯びたものになるかも知れない。その上で購入を持ちかけ<一貫性の原理>、特典を示されれば、商品に対する冷静な価格判断はなかなか難しいかもしれない。   

 最後は消費者の意思決定バイアス(認知の偏り)である。まず有名なのは「端数価格の効果」1540円⇒1520円よりも、端点付近2000円⇒1980円のほうが価格差が大きく感じる。他にも比率の錯覚である「フレーミング効果」がある。20000円⇒19000円よりも3000円⇒2000円の方が割安感がある。

 面白いのは「検索容易性の原理」を利用した手法。「BMWには多くの長所がある、1つ選べ 」と「BMWには多くの長所がある、10個選べ」の二通りの条件の場合、一つ選ぶほうが好感度が高かった。10個選ぶよりも1個選ぶ方が簡単なので、その検索行為の容易な方が好意的評価へつながるようだ。